サイトへ戻る

いい本って、どんな本だと思いますか?

ななし書房の考えている「いい本」について。
「いい本」はつまらない!?

「いい本」って、どんな本だと思いますか?

面白い本、泣ける本、わかりやすい本、役に立つ本、知りたいことがちゃんと書かれている本、共感できる本、何度も読める本、知恵を与えてくれる本、新しい発想につながる本、考えさせられる本などなど、おそらく人それぞれで、簡単には答えがでないのではないでしょうか。

でも、出版社の人に聞いたらどれでもない答えがよく返ってきます。

それは、売れる本、売れている本、という答え。

出版業界にいると、だれもが耳にする話です。商業出版ということはビジネスですから、売れなければ、それはいい本とはいえません。売れない本は、どんなに著者や編集者などが面白い、役に立つと言っても、いい本ではないというわけです。

商業出版したい書き手の人からしたら、なんだかつまらないように感じるかもしれませんが、売れないということは、読まれないということですから、結果としてだれの役にもたたないし、だれの心にも届かないのですから、その通りだろうと思います。

が、しかし、頭ではわかっていても、やっぱり素直に受け入れたくない気持ちが心の片隅にあります。いい本ってほんとに売れる本、売れている本なのでしょうか。

売れる本ってどんな本でしょう?

では、売れる本というのは、どんな本でしょうか。考え付くことといえば、著名人に書いてもらう、今旬な人に書いてもらう、読者を持っている著者に書いてもらう、売れていたり話題になっていたりする本の類似本、といったところでしょうか。そんなこともあって、書店にはその時の流行がすぐに反映されます。

たとえば、ヒットした本があったとします。するとどうでしょう。気づいたころにはコーナーができるほど似たようなタイトルの本が書店にあふれます。柳の下にドジョウが3匹とか、なかには7匹なんていう人もいますが、売れている本の類似本を出せば、ある程度の売り上げが見込めるのです。そしてそれは早い者勝ち。内容よりもスピード勝負でどんどん出版されます。

ちょっと前の話になりますが、血液型のB型関連本なんかがそうでした。最近ではB型本ほどではないと思いますが、埼玉関連本なんかがそうかもしれません。こうした本は、一気に盛り上がったかと思うと、あっという間に魅力は劣化してしまいます。売ることが目的ですから、これはどうしようもないことですし、出版社として当然の戦略です。

商業出版の本づくり

ただこうした売るための本づくりに対して、本当に満足している人はどれくらいいるでしょうか。

たとえば編集者。つくりたくはないけど売れているからつくるということも多々あることでしょう。もちろん手を抜くということはないはずですが、編集者が面白いと感じ、「売れる本(いい本)にできる」と判断したものがつくれるかといえば、そういうものでもないわけです。

著者ももちろん書きたいものが書けるわけではありません。売れる方向、売れている路線に内容や構成の変更を求められます。

読み手の方もそうじゃないでしょうか。「また同じような本ばっかり」と感じたりしませんか?

商業出版とはそういう世界です。決して内容がいいということだけでは出版されません。どこまでも売れるための本づくりを追及しています。だから商業出版するためには、そうした企画が求められますし、売れることがもっとも意識させられます。もちろん出版は文化の側面も持っていますから、志を持って取り組んでいる出版社もたくさんあります。しかし、それでも売れなければ間違いなく続けていくことはできないのです。

でも、これはあくまでも出版社の論理です。

本来は書き手の論理でも、読み手の論理でもありません。書きたいことを自由に書いていいですし、どんなにマニアックでも読みたいものを求めていいのです。でも、心では自由だとわかっているのに、その行動は「いい本=売れる本」という方程式が、みんなに成り立ちます。

商業出版を目指している人は、売れること、売ることを考えて書いているでしょうし、読み手の人も売れている本が買いたいと思います。心ではいい本とは、面白い本や役立つ本などと思っているはずなのですが、結局は売れること、売れていることが基準になっています。もちろんそれは当たり前の話なので否定したいわけではありません。

ただ、それでは、本当に書きたい本は書けないでしょうし、本当に読みたい本は生まれてきません。さまざまな本があるようでいて、実際のところは似たような本ばかりということになってしまいます。

これでは、おもしろくないですよね。

書く人も、読む人も、つくる人も満足できないなんてつまらないです。実際のところ、売れる本というのは、だれにもわかりません。出版社としては、売るためにあの手この手を尽くすわけですが、結局は本が売れるか売れないかはわかりません。というよりも、出版不況といわれているように、今の時代、基本的には売れません。「出版なんてギャンブルみたいなものだ」とも昔からよく聞く話ですが、まさにその通りで、売れる確率は上げようとはしていますが、確信なんて持てないまま出版しているのが現状でしょう。

おもしろい本づくり、しません?

だったら、すでにプロとしてデビューしている書き手の人は別としても、そうでない人は、まずは売るための本、売れる本を目指すのではなくて、「読んでもらうための本」をつくることが大切じゃないかと思うのです。「読んでもらうこと=買ってもらうこと」ではありません。売るための本はプロになってからでも遅くはありません。

今は読んでもらう手段はたくさんあります。個人のブログで情報発信することもできますし、投稿サイトあります。まずは読んでもらということを意識することが第一歩じゃないかと思います。

読者の目は、誰よりも厳しいです。実際に読んでもらうとわかると思いますが、最後まで読んでもらうことができたら、たとえ内容がまったく評価されていなかったとしても、それはとてもすごいことです。ファンが付いたなんていったら、ものすごいことです。でも、実際はほとんどが最後まで読んでもらえないでしょうし、評価さえしてもらえないのではないでしょうか。

ただ、それでも書くことをあきらめず、読んでくれる人のために、書きたいことを思い切り書くことを続けてほしいと思っています。

そして、ななし書房では、そうした思いを持って書いている書き手の本を編集させてもらいたい。さらにそうしてできた本をしっかりと読み手に届けたい。そんなことを思って、私家本プロジェクトをはじめました。

出版社の人からしたら、甘ったるい考えと思われてしまうでしょうが、編集としてはやっぱりだれもが思う「いい本」をつくりたいんですよね。

私家本プロジェクト「ななし」

http://nanasi.strikingly.com

作家を目指す人のための私家本出版もやっています。

http://nanasikabon.strikingly.com